しかしながら,新薬を販売する製薬会社は,耳にたこができるくらい副作用の少なさを強調しておきながら,患者さんが車の運転をできるようになる,とは絶対に言いません。
言わないだけならまだ良いのですが,非定型抗精神病薬の添付文書にもSSRIの添付文書にも,千年一日のごとく「眠気,注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので,本剤投与中の患者には自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意すること」と謳い続けています(※確認してみたところ,SSRIのうちパキシルの添付文書では運転に関して少し弱めの表現が用いられていました。デプロメールのインタビューフォームでは旧来どおりの表現でした)。
非定型抗精神病薬は定型抗精神病薬よりも,SSRIは三環系抗うつ薬よりも,はるかに副作用が少ない(特に認知機能に及ぼす悪影響が小さい)ことを,プロモーションとしては強調しておきながら,法的な責任を伴う手続きレベルでは保守的な姿勢をとり続けるのはダブル・スタンダードのように思われます。
「運転には影響が及ばない」ことを謳うためには恐らく治験でそれを証明しなければならないのですが,単純に考えてもこれは非常にコストがかかりそうです。
製薬会社は費用対効果の観点からこれを回避し,故に厚生労働省は保守的な注意喚起を要求し,最終的な責任は臨床医と患者さんに委ねられる――タミフルと異常行動の問題で認められた構図は,実はどの薬剤のどの副作用でも認められうるものです。
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