一般科の医師は,検査に基づいて診断を下すことに,あまりにも慣れすぎています。
一方で精神科医は,自分たちが相手にする病気には,診断の根拠となる検査値がないのだという事実に慣れすぎてしまっているかもしれません。
一般科の医師は,ある患者さんに対して思いつく限りの検査を行っても異常所見が得られないと,しばしば「心因性」疾患と診断を下し,その患者さんを精神科医に紹介します。
精神科医は,一般科の医師が検査をして異常が無かったのだから,その患者さんは自分の守備範囲の疾患を患っているのだろうと盲目的に対処しがちです。
しかし,検査において異常所見が認められなかったという事実には,「現時点の科学・医学水準においては」という重大な留保がつきます。
レントゲンもなかった16世紀――といった極端な例を出すまでもなく,例えば,胃潰瘍の患者さんの何割かが,精神安定剤によって治療されたり,精神科に通っていたりという時代がありました。
ほんの20年か30年前のことです。
胃潰瘍の原因が心理的なストレスであると考えられていたからです。
それは必ずしも間違った考え方ではありません。
しかしながら,現在では,心理的ストレスが胃潰瘍の唯一絶対の原因であるとは見做されていないのは皆さんもよくご存知のとおりです。
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