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双極性障害(躁うつ病)の診断と治療 ―典型的な治療失敗例(疑)を通じて― (10)

前記事では,「マンガ お手軽躁うつ病講座High&Low」「マンガ境界性人格障害&躁うつ病REMIX 日々奮闘している方々へ。マイペースで行こう!」で描かれているたなかみる氏の主治医(恐らく実在の人物……というか、阪南病院の医師で、実名で巻末に「発刊に寄せて」という文章を載せています)に精神科薬物療法の基本的な知識が欠けていると結論づけました。

なんて傲慢な奴だと思われた方も多かったかもしれませんが,実のところ,日本の精神医学の総体的なレベルの低さをいちばん知っているのは精神科医自身です。
私が思うところを書き連ねるよりはよほど現状を端的に表した記事が2006年9月27日の毎日新聞に載っていたので,これをとっかかりにお話を進めることにしましょう。

「うつ病:適切な治療を受けているのは1/4 学会,研修の実施検討」と見出しがつけられたこの記事では,中根允文・長崎大学名誉教授,樋口輝彦・国立精神神経センター院長,野村総一郎・防衛医科大学校教授といった大御所のコメントをうまく引用して精神医学の現状を描出しています(新聞記事なので遠からずWeb版のリンクは既に切れています。少し長くなりますが,この記事のいちばん下に全文をコピペしておきます)。

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これはうつ病の治療についての記事であるわけですが,日本の精神医学がうつ病に関してだけこれほどプアで,他の病気については充実しているということはありえないわけなので,要するにこの記事は日本の精神医学のレベルはこの程度である,ということの証左と言えます。

最初のパラグラフからして,「うつ病の治療法をきちんと知らない精神科医が多いという」。
「心の風邪」の治し方を知らない精神科医が多いわけです。
いちおうは「精神疾患は統合失調症,パニック障害,アルコール依存症など多岐にわたり」というフォローが入っていますが,精神医学がそこまで専門分化してるわけじゃなし,うつ病の治療法をきちんと知らない精神科医が統合失調症やパニック障害やアルコール依存症の治療をきちんと知っているということはありえません。
要するに,「精神疾患の治療法をきちんと知らない精神科医が多い」ということに他ならないのです。

良くも悪くも,阪南病院のN医師は,おそらく日本の標準的な精神科医なのかもしれません。

 
*   *   *   *   *

うつ病:適切な治療を受けているのは1/4 学会,研修の実施検討

 企業の合理化とコスト削減で,仕事量が増え,うつ病に悩む会社員も増えている。きちんとした治療で完治も可能だが,「適切な治療を受けているうつ病患者は全体の4分の1に過ぎない」(中根允文・長崎大学名誉教授)との指摘もある。日本うつ病学会は適切な治療のできる精神科医の養成が急務だとして,研修の実施を検討している。【中村美奈子】

 ◇セカンドオピニオン有効

 うつ病の治療は「1種類の抗うつ剤を一定期間,一定量出す」というのが基本で,症状を診ながら別の薬に切り替えていく。だが,こうした治療方法を知らない医師が多く,問題になっている。精神疾患は統合失調症,パニック障害,アルコール依存症など多岐にわたり,うつ病の治療法をきちんと知らない精神科医が多いという。

 うつ病は不適切な治療を続けると治療期間が長引き完治が望めない。だが患者は精神科医というだけで「精神疾患全般を治せる」と思いがちで,不適切な治療に気づかないという。うつ病患者から職場復帰の相談を受けてきた内科出身の富士電機システムズの産業医,堀川直人さん(43)は「2種類の薬を少量しか出されていない患者が多く治療に疑問を感じる」と話す。


 7月の同学会で堀川さんは何カ月も2種類の薬を少量ずつ服用し,セカンドオピニオンを勧めた患者のケースを報告。この患者はセカンドオピニオンをもらいに行った病院で治療を受け直し,抗うつ薬を1種類に絞り,徐々に増量したところ,回復し,職場復帰を果たした。堀川さんは「精神科もセカンドオピニオンが有効」と話す。

 うつ病患者は別の医師に症状を改めて説明することが気疲れの原因となり,セカンドオピニオンを嫌がる傾向にあり,堀川さんは紹介状に病状の経緯を書いた書類を添えている。お薬ノートを見せ,経緯をA4 1枚に家族がまとめても参考になるという。

 日本うつ病学会も,うつ病の治療が適切にできる医師の養成が急務だとして,来年度から研修を行い,修了者には認定証を出すことを検討。また,病院選びについて国立精神・神経センター武蔵病院の樋口輝彦院長は「当面は大学病院や総合病院の精神神経科,うつ病専門の開業医にかかるのがよい」と話す。

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 ◆適切な薬物療法の6条件◆

 (1) 標準治療を知っている

 (2) 副作用とその対策を熟知

 (3) 薬の種類を減らそうとする

 (4) 複数の薬を使う際,納得できる説明ができる

 (5) 薬の少量投与(ちょこ出し)をしない

 (6) 薬の飲み心地をいつも聞く

 ※防衛医科大学校精神科学講座・野村総一郎教授による

毎日新聞 2006年9月27日 東京朝刊


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2008年09月22日 23:04に投稿されたエントリーのページです。

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