今回は前回の続きで、神経内科と精神科のオーバーラップ部分についてお話ししましょう。
クリアカットに両科を区別できないことがあると書きましたが、それは以下のような場合です。
① 神経内科の対象疾患の部分症状として精神症状が現れる
たとえば、アルツハイマー型認知症の場合、記憶障害も目立たず、MRIなどで脳の萎縮が検知できないくらいのごく初期に、高率に抑うつ症状を呈します。このような患者さんは、まず精神科で治療を受け、痴呆が進行してくると神経内科にバトンタッチ、というのが一般的です。
また、進行した痴呆では、BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia:痴呆の行動と心理症状)と呼ばれる様々な問題行動が生じます。
痴呆は本来的には神経内科で治療されるべき疾患ですが、行動障害や精神症状が強いと一般病棟でのケアが難しくなるため、精神科での管理が必要になる場合があります。
遺伝性の変性疾患で、不随意運動を主徴とするハンチントン舞踏病では、統合失調症様の精神症状や人格変化が認められることがあります。この場合もやはり精神科との併診が勧められます。
② 神経内科疾患の治療によって精神症状が現れる
有名なのはパーキンソン病で、治療薬であるドーパミン製剤の副作用で幻覚や妄想が現れることがあります。病状によっては精神科へのコンサルトが必要となります。
また、自己免疫疾患などの治療に用いられるステロイド製剤の副作用によって抑うつ症状や「ステロイド精神病」が現れることがあります。
このような例を挙げたのは、皆さんを混乱させようと思ってのことではありません。
精神疾患と同じような症状が認められることはあっても、神経内科の病気は神経内科の疾患であるということを強調したかったのです。
本来的には神経内科の疾患であるわけなので、治療の軸足は神経内科に置いておいた方が患者さんは大きな利益を享受することができます。
精神症状はどうしても目立つので、そちらの治療が優先されてしまうことが少なくありませんが、患者さんのご家族や、そして何より医療者が、神経内科と精神科の線引きを認識した上で、両科が協働して最良の結果を目指すことが重要です。
次回は精神科と神経科についてです。