さてそれでは,向精神薬は患者さんの脳機能にどのような影響を及ぼし,それらを服用した状態で車を運転するとどのような不都合があるのでしょうか。
たまたま手近にあったある安定剤の添付文書(医師や薬剤師向けの医薬品の能書のようなものです)には「重要な基本的注意」という項に「眠気,注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので,本剤投与中の患者には自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意すること」と記載されています。
具体的な薬剤名を挙げないのは,販売元からのクレームを恐れてのことではありません(このブログにそれほどの影響力はないでしょう)。
どの薬の添付文書にも同じ文言が記載されているので,薬剤名を特定する必要がないのです。
通常は添付文書が患者さんやそのご家族の目に触れる機会はありませんが,調剤薬局で手渡される薬のしおりには似たような記載があるかもしれません。
ただ,昨今は製薬会社のWebサイトに自社取り扱い製品の添付文書がアップされていますので,いちど目を通されてみるのも面白いかもしれません。Googleなどでお飲みになられている薬剤の名前を検索してみると製造・販売元がわかるでしょうから,その会社のサイトに飛んで「医療関係者のみなさま」というサブカテゴリーに入ると大体は何ステップかで添付文書にたどり着けます。
道路交通法で自動車の運転の相対的欠格事項として想定されているのであろう統合失調症,てんかん,躁うつ病のそれぞれ治療薬である抗精神病薬,抗てんかん薬,気分安定薬,そしてどの病気にも共通して使用されうる睡眠薬や精神安定剤の大多数(確認したわけではありませんが多分すべて)の添付文書に,判で押したように上述の文言が記載されているのです。
しかしこれは医学的・薬理学的にはおかしなことです。
向精神薬とひと括りになっていますが,抗精神病薬と睡眠薬,気分安定薬,抗てんかん薬ではまったく作用機序や脳内での作用点が異なりますし,抗精神病薬でも,最古のクロルプロマジンと最新のエビリファイとでは作用・副作用の出方は大きく違っています。
であるにも拘らず,なぜ画一的に,すべての薬が,まったく同じ内容の警告を与えられているのでしょうか。
そして医者や患者さんは,添付文書の「重要な基本的注意」にそう書かれているからという理由だけで,必ずそれに従わなければならないのでしょうか。
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