« 2007年05月 | メイン | 2007年07月 »

2007年06月 アーカイブ

2007年06月05日

強迫性障害と行動療法(曝露反応妨害法) (1)

5月31日の「スーパーニュース」(フジテレビ系列,16:55~19:00)の「スーパーリポート」のコーナーで強迫性障害(Obsessive-Compulsive Disorder:OCD)と,それに対する行動療法(曝露反応妨害法)が特集されていました。

この番組のこのコーナーではしばしば医療関係の問題が取り上げられ,内容の質も優れている(と感じることが多い)ので,私も,時間があれば見るようにしています。

5月31日の特集も「ちゃんとした」ものでしたが,もしかしたら患者さんやそのご家族が誤解されるかもしれない一面があったように思ったので,僭越ながらその補足かたがた,OCDと曝露反応妨害法について説明してみたいと思います。

これから仕事なので続きは夕方にでも。


メンタルヘルスブログ


強迫性障害と行動療法(曝露反応妨害法) (2)
>>>「メンタルクリニック.net」トップページへ





2007年06月06日

強迫性障害と行動療法(曝露反応妨害法) (2)

前記事への夕顔さんからコメントに対する回答でも少し触れましたが,ひとくちに行動療法,認知行動療法といっても,その基盤となる理論には多くの学派があり,技法も多様です。

そのなかで強迫性障害(OCD)に対する有効性が確立しているのが曝露反応妨害法であるということです。逆に言えば,行動療法と名前がつけば何でもかんでもOCDに効くというわけではありません。

曝露反応妨害法も曝露法と反応妨害法という2つの技法の組み合わせです。

曝露反応妨害法について説明する前に,まずはOCDの症状形成の成り立ちを順を追ってお話しましょう。

不安障害に分類されるOCDの中核症状はもちろん不安ですが,OCDの場合,不安を惹起する「先行刺激」が認められます。
典型的な不潔恐怖を例に挙げるならば,例えば吊り革を掴むことが先行刺激になります。
通常,OCDでは,少なくとも初期には合理的な判断力が保たれるので,吊り革はそれほど不潔ではないことや,吊り革を掴んだくらいで病気にはならないことを患者さんは理解しています。

しかし,患者さんは,例えば,「吊り革に病原性の高い細菌がついていて,それに触れたことで自分に病気が伝染するかもしれない」という考えにとりつかれます。
自分でも不合理だとわかってはいるのに抵抗しがたい着想――これを「強迫観念」と呼びます。

メンタルヘルスブログ


強迫性障害と行動療法(曝露反応妨害法) (3)
>>>「メンタルクリニック.net」トップページへ





強迫性障害と行動療法(曝露反応妨害法) (3)

この強迫観念が,強い不安を伴います。
前記事で挙げた例でいえば,「吊り革に病原性の高い細菌がついていて,それに触れたことで自分に病気が伝染するかもしれない」という強迫観念によって湧き上がる不安は,現実にその患者さんがペスト菌やコレラ菌に触れた場合に感じるであろう不安に匹敵する場合があります。

そんなはずはないとわかってはいるのに,強い不安を感じずにはいられない。
それが強迫性障害(OCD)の症状の中核です。

表面にあらわれる行動は,この不安に対する反応として位置付けられます。

強迫観念に伴う不安を軽減するための対処行動――それが「強迫行為」です。
手に病原菌が付いたような気がするので(そんなはずはないのだが),手を洗う。
戸締りをし忘れたような気がするので(そんなはずはないのだが),施錠を確認する。

不安は目に見えないので,OCDが周囲の人に気がつかれるのは,こうした強迫行為が現れてからです。

メンタルヘルスブログ

>>>強迫性障害と行動療法(曝露反応妨害法) (4)
>>>「メンタルクリニック.net」トップページへ




2007年06月07日

強迫性障害と行動療法(曝露反応妨害法) (4)

先行刺激によって強迫観念が生じ,強迫観念によって不安が惹起され,その不安を軽減するために強迫行為を行う――これが,現象学的に見た場合の強迫性障害(OCD)の症状の成り立ちです。

話がそれますが,強迫観念に伴う不安にベンゾジアゼピン系の抗不安薬を処方する精神科医や心療内科医が少なくありません。
しかしこれは百害あって一利無しで,OCDの不安にはベンゾジアゼピンは(パニック発作を伴っているようなケースを除いては)効果はありませんのでご注意を。

さて,薬物療法は置いておくとして,強迫観念によって不安が惹起された場合,強迫行為を行わないと患者さんはどうなってしまうのでしょうか。

もっと不安になります。

では永久に不安状態が続くのかというと,実はそうではありません。
強迫行為を行わずにいると,不安は一時的に高まるのですが,一定時間を越えると自然に軽減します。

この現象を体系付け,治療に利用するのが曝露反応妨害法です。

メンタルヘルスブログランキング


強迫性障害と行動療法(曝露反応妨害法) (5)

>>>「メンタルクリニック.net」トップページへ





2007年06月16日

強迫性障害と行動療法(曝露反応妨害法) (5)

曝露反応妨害法が曝露法と妨害法の2つの技法の組み合わせであることは既に述べました。

曝露法とは強迫性障害(OCD)の治療においては,強迫観念を生じさせる先行刺激に患者さんを直面させる段階に相当します(先行刺激→強迫観念→不安の出現→強迫行為→不安の軽減……というスキームは前回お示ししたとおりです)。

ここがまず難しく,かつ誤解を招きやすいところでもあります。

例えば,他人が使ったボールペンに触れるとエイズウイルスに感染してしまうのではないかという強迫観念が生じ,繰り返し手を洗うという強迫行為を行う患者さんがいたとします(かなり単純化した例ですが)。

この患者さんに対して,「そんな馬鹿なことがあるか。ボールペンくらい触われるだろう」的な対応は,患者さんが精神科を受診するはるか以前に,家族や同僚,学友によってなされているのではないでしょうか。
何より,OCDでは病識が失われませんから,患者さん自身が,少なくとも病気の初期においてはボールペンに触れようとチャレンジしているはずなのです。

しかしそれを曝露法とは呼びません。
表面的には同じように見えても,曝露法は,患者さんを無理やり先行刺激に直面させるような「ショック療法」とは一線を画するものです。

メンタルヘルスブログランキング


強迫性障害と行動療法(曝露反応妨害法) (6)
>>>「メンタルクリニック.net」トップページへ




2007年06月26日

強迫性障害と行動療法(曝露反応妨害法) (6)

そういった研究は寡聞にして見たことがありませんが,先行刺激への直面を治療として行うことに納得されていない患者さんを,なかば無理やり直面させるのと,適切な説明を行って患者さんに治療意欲をもってもらい,積極的に先行刺激に向き合ってもらうのとでは,結果はまったく異なったものになるでしょう。

精神科受診が一般的ではない日本においては,強迫性障害(OCD)の患者さんが病初期に受診することは稀です。
一定以上病状が進んだ患者さんでは多かれ少なかれ「回避」が認められます。
患者さん御本人にとっても儀式化し複雑化した強迫行為を行うことは辛いので,もしくはそれ以前に強迫観念に伴う不安感が辛いために,それらの引き金になる先行刺激が発生する状況を避けようとするのです。
前述の例で言えば,患者さんはボールペンを使わない生活をしようとします。

精神科医が初めて診た時には,患者さんは強迫観念による不安をなかば条件反射のように強迫行為で軽減させるか,それ以前に不安が起こる状況を回避する生活を送るようになっています。

そのような患者さんに,敢えて先行刺激に直面してもらい,かつ強迫行為は行わずに不安が消えるまで我慢してもらうのが治療です,という説明を行うわけなので,中にはそれに強い抵抗を示される方も折られます。

メンタルヘルスブログランキング 現在33位


>>>強迫性障害と行動療法(曝露反応妨害法) (7) (未執筆)
>>>「メンタルクリニック.net」トップページへ





About 2007年06月

2007年06月にブログ「メンタルクリニック.net」に投稿されたすべてのエントリーです。過去のものから新しいものへ順番に並んでいます。

前のアーカイブは2007年05月です。

次のアーカイブは2007年07月です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。