私が問題視しているのは,長期的に血糖上昇(それが異常値と呼ばれる域に達していなくても)が続いた場合に患者さんの生命予後に悪影響が及ぶことが判明していて,かつイーライリリー社自体がジプレキサによる血糖上昇のリスクが高いことを公式に認めているにも関わらず,なお同社がCATIE試験のような短・中期の試験の結果のみをもって「ジプレキサは有用な薬である」と喧伝している点です。
イーライリリー社がジプレキサの長期的な危険性に気づいていないわけはありません。
マーシャ・エンジェル著「ビッグ・ファーマ―製薬会社の真実」やデイヴィッド ヒーリーの「抗うつ薬の功罪―SSRI論争と訴訟」にも登場するイーライリリー社は世界ベスト10に入るメガ・ファーマであり,ジプレキサだけを製造・販売しているわけではないのです。
そもそも,同社は世界で初めて遺伝子組み替えによるヒトインスリン製剤の開発に成功したことで名を成した製薬会社です。
糖尿病を初めとする血糖,ひいては代謝系の問題に関してはむしろ強みを持っているはずの企業なのです。
にも拘らず,彼らがジプレキサ服用に伴う長期的リスクを無視したプロモーションを行っているのでは,確信犯的行動と見做されても仕方がないのではないでしょうか。
えらく長くなってしまいましたが,しばしば見られる,製薬会社のプロモーションと医学的事実の乖離の好例であると思われたのでこの件についてとりあげさせていただきました。
次回からは「睡眠薬と安定剤の正しい止め方」に戻ります。
(この項終わり)