うつ病の患者さんの症状が全般的に改善してきた時点でベンゾジアゼピン(睡眠薬、安定剤)を減量したところ、不眠や不安がぶり返した――この場合、「減薬が早すぎた」という判断が下されることが多いように思われます。
たしかにそれはありうることです。
うつ病が根治していれば症候の一部である不眠や不安も消褪します。
しかしうつ病自体はまだ十分には良くなっていないにも関わらず、対症療法であるベンゾジアゼピンによって一部の症状がマスクされていただけであった場合、薬を減らしたり止めたりすれば不眠や不安が再び顕在化するでしょう。
ただ、抑うつ気分や意欲減退、興味・関心の低下といったうつ病の中核症状は改善しているにも関わらず、ベンゾジアゼピンの減量によって不眠や不安だけが消長を繰り返す場合は、ベンゾジアゼピンの常用量依存(臨床容量依存)の可能性が考慮されるべきです。
そしてひとたび常用量依存との診断が付いたならば、うつ病の治療からベンゾジアゼピン依存症の治療へと軸足を移す必要があります。
治療よりも予防のほうが容易なので、本来は依存が起こりにくいベンゾジアゼピンの使用法が考慮されるべきですし、依存が起きても早期に介入すれば解決が可能な場合が多いので、早期発見・早期治療が重要であることは言うまでもありません。
しかし残念ながら、そのどちらにもあまり注意が払われていないのがわが国の精神科薬物療法の実情です。