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2011年11月 アーカイブ

2011年11月03日

精神科多剤併用に対する動き

【中医協】睡眠薬多剤投与でマイナス評価も
厚生労働省は11月2日の中央社会保険医療協議会(中医協、会長=森田朗・東大大学院教授)の総会に、睡眠薬や抗不安薬を3種類以上処方した場合の報酬の在り方を論点として提示した。「多剤処方した場合に、何らかのディスインセンティブを付ける」(厚労省)ことも視野に入れた提案で、特に反対意見はなかった。 (医療介護CBニュースより引用)

ようやくこうなったか、という印象です。精神科の多剤併用はどうやら医師の知識や意識の底上げではどうにもならず、保険診療報酬で切るしかないだろうなと思っていたので。
いきなり断行すると現場で混乱が起こると思われるので、移行期間は必要でしょうが、きっと、やればやれてしまうはずです。
どうせなら、抗うつ薬や抗精神病薬にも同じような制限を設けてもらいたいものです。

そういえばこんな記事も。
睡眠薬、3種処方6% 厚労省「依存注意を」
2009年に病院などで睡眠薬を処方された人のうち、3種類以上の睡眠薬を処方された割合が6.1%だったことが1日、厚生労働省研究班の調査で分かった。抗不安薬で3種類以上処方されたケースは1.9%だった。同省は睡眠薬と抗不安薬について、3種類以上の処方は薬物依存の可能性などを十分考慮するよう医療機関や患者に注意を呼びかけている。(日本経済新聞より引用)

こういったニュースが偶然重なるわけはないので、厚生労働省がリリースのタイミングをコントロールしているのだろうと憶測。
理由は患者様のためではなく医療費の抑制かな……。


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2011年11月11日

国内外における睡眠薬・安定剤の処方傾向の違いに想う

JustAnswerで精神科臨床関係の相談に回答していますが、ネットという特性もあって、海外在住の日本人の方々からのご質問が少なくありません。

やはり言葉が通じない、もしくは母国語ほどに細かいニュアンスを伝えられない環境では、精神科受診はハードルが高いようです。
また、GP(general practitioner)を受診してから、紹介を受けて数ヶ月してようやく専門医の診察を受けられる、といった医療制度がとられている国もあります。
たしかに、そういった状況にいる方々にとっては、文字のやり取りであっても日本語で精神科的問題を相談できるシステムというのは有用なのだろうと思われ、すこしでもお役に立てるよう、日々心を砕いています。

そんな中で痛感させられることの違いのひとつがやはり睡眠薬、安定剤(ベンゾジアゼピン系薬物)の使用実態の違い。

恐らくほとんどの先進諸国ではunderuse(使われなさすぎ)。
SSRIを服用してactivation syndromeを起こして不眠と不安を呈していても眠剤も安定剤も出してもらえないのだがどうしたらよいか、という相談を受けたりします。
だからSSRI服用に伴う自殺が取り沙汰されたりするのだろうな、と思ったりもしつつ、GPに1週間ぶんくらいは眠剤の処方を希望できないのかと逆質問すると、やはり駄目なのだそうで。
Activationは1~2週間で治まるから待つように、と言われるそうです。
それくらいベンゾジアゼピンの使用は徹底して制限されているようです。

一方で国内からの質問は一定数が、「もう何ヶ月(時には何年)も薬を飲み続けているが良くならない。病院を変えた方がいいだろうか」という質問。
良くならないのになぜ何ヶ月も通っていられるのですか? とこちらから訊くことはありませんが、処方を確認すると案の定というか、皆さん、ベンゾジアゼンピン漬け。
2剤3剤併用は当たり前で、高用量を月単位・年単位で服用されている方がごろごろ。症状が良くなろうが悪くなろうがお構いなしに継続されている例が大半です。
日本では間違いなくoveruse(使いすぎ)。

どちらも正しくないのだろうな、とは思いますが……。


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2011年11月12日

うつ病の治療(抗うつ薬)をいつ止めるか (1)

抗うつ薬はいつ止められるんですか? ――臨床でも、JustAnswerでの相談でも、うつ病の患者様から、しばしば訊かれる質問です。

この質問は、精神科医(の大半)が医師という職業カテゴリーの中で以下に未成熟な集団であるかの証左です。
外科で虫垂炎の手術を受けてから、「私はいつまで入院していればいいんですか?」と訊く患者様はおられないでしょう。
内科でインシュリン注射による治療が開始されてから、「で、私はいつまでこの注射を打っていればいいんです?」と訊く患者様もいません。

治療ゴールを示し、そこにいたるまでのステップを示す「クリティカル・パス」的な発想は、多くの精神科医にとって縁遠いものです。
それはひとつには、精神医学の歴史が病名隠蔽の歴史であったことと関係するでしょう。「あなたの診断は統合失調症です」、「あなたがかかっている病気はうつ病です」――そう告知すること自体が患者様の病状に侵襲的に働くと信じられてきた暗黒の時代が、精神科では長く続きました。

これは精神科医側だけの問題ではなく、患者様やそのご家族の問題でもあります。自分が、身内が、精神科疾患にかかっていることを拒否せずにはいられない心性が患者様サイドにもあった(ある?)ことも事実です。

しかして、精神科においては病名を告げず、治療方針を告げず、薬の作用と副作用を説明をせず、いつまで治療が続き、最終的に予想される転帰がどのようなものであるかを治療開始時に告知せずに治療が開始されるという文化が精神科臨床に根付くことになりました。


>>>JustAnswerで猫山司に質問
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うつ病の治療(抗うつ薬)をいつ止めるか (2)

精神科医の側がうつ病の治療をいつ止めるか、という出口戦略をもっていないところにきて、近年、話を複雑なものにしているのが「うつは心の風邪」キャンペーンでしょう。

ざっと調べた所では、これはどうやら1999年に、デプロメール(=ルボックス)を売り始める際、明治製菓がひねくりだしたキャッチフレーズのようです。

このキャンペーンによりうつ病の患者様が精神科/心療内科を受診しやすくなった(そして抗うつ薬の売り上げも伸びた)という「功」が強調されることが少なくありませんが、「罪」の方が大きいだろうというのが私の個人的意見です。

患者様に、「うつ病とは一過性の病気で、短い期間だけ薬を飲んで休んでいれば治る病気である」というイメージを持たせてしまったように思うからです。

精神科医の大半は薬をだらだらと出し続けるつもりでおり、患者様は薬を飲めばうつ病はすぐに良くなり元通りの生活が出来ると思っている――単純化すれば、「うつは心の風邪」キャンペーン以降、そういった構図が精神科臨床の現場に出来上がってしまいました。

そのどちらの考え方も間違っています。

うつ病は再燃・再発のリスクが高い慢性疾患であって、「風邪」のような一過性の病態からは程遠いものです。
しかし一方で、だからといって漫然と薬を出し続けていいというものでもありません。

医師を正しく教育し、患者様を正しく啓蒙する必要が、日本のうつ病の臨床にはあるように思われます。


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