抗うつ薬はいつ止められるんですか? ――臨床でも、JustAnswerでの相談でも、うつ病の患者様から、しばしば訊かれる質問です。
この質問は、精神科医(の大半)が医師という職業カテゴリーの中で以下に未成熟な集団であるかの証左です。
外科で虫垂炎の手術を受けてから、「私はいつまで入院していればいいんですか?」と訊く患者様はおられないでしょう。
内科でインシュリン注射による治療が開始されてから、「で、私はいつまでこの注射を打っていればいいんです?」と訊く患者様もいません。
治療ゴールを示し、そこにいたるまでのステップを示す「クリティカル・パス」的な発想は、多くの精神科医にとって縁遠いものです。
それはひとつには、精神医学の歴史が病名隠蔽の歴史であったことと関係するでしょう。「あなたの診断は統合失調症です」、「あなたがかかっている病気はうつ病です」――そう告知すること自体が患者様の病状に侵襲的に働くと信じられてきた暗黒の時代が、精神科では長く続きました。
これは精神科医側だけの問題ではなく、患者様やそのご家族の問題でもあります。自分が、身内が、精神科疾患にかかっていることを拒否せずにはいられない心性が患者様サイドにもあった(ある?)ことも事実です。
しかして、精神科においては病名を告げず、治療方針を告げず、薬の作用と副作用を説明をせず、いつまで治療が続き、最終的に予想される転帰がどのようなものであるかを治療開始時に告知せずに治療が開始されるという文化が精神科臨床に根付くことになりました。