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うつ病の治療(抗うつ薬)をいつ止めるか アーカイブ

2011年11月12日

うつ病の治療(抗うつ薬)をいつ止めるか (1)

抗うつ薬はいつ止められるんですか? ――臨床でも、JustAnswerでの相談でも、うつ病の患者様から、しばしば訊かれる質問です。

この質問は、精神科医(の大半)が医師という職業カテゴリーの中で以下に未成熟な集団であるかの証左です。
外科で虫垂炎の手術を受けてから、「私はいつまで入院していればいいんですか?」と訊く患者様はおられないでしょう。
内科でインシュリン注射による治療が開始されてから、「で、私はいつまでこの注射を打っていればいいんです?」と訊く患者様もいません。

治療ゴールを示し、そこにいたるまでのステップを示す「クリティカル・パス」的な発想は、多くの精神科医にとって縁遠いものです。
それはひとつには、精神医学の歴史が病名隠蔽の歴史であったことと関係するでしょう。「あなたの診断は統合失調症です」、「あなたがかかっている病気はうつ病です」――そう告知すること自体が患者様の病状に侵襲的に働くと信じられてきた暗黒の時代が、精神科では長く続きました。

これは精神科医側だけの問題ではなく、患者様やそのご家族の問題でもあります。自分が、身内が、精神科疾患にかかっていることを拒否せずにはいられない心性が患者様サイドにもあった(ある?)ことも事実です。

しかして、精神科においては病名を告げず、治療方針を告げず、薬の作用と副作用を説明をせず、いつまで治療が続き、最終的に予想される転帰がどのようなものであるかを治療開始時に告知せずに治療が開始されるという文化が精神科臨床に根付くことになりました。


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うつ病の治療(抗うつ薬)をいつ止めるか (2)

精神科医の側がうつ病の治療をいつ止めるか、という出口戦略をもっていないところにきて、近年、話を複雑なものにしているのが「うつは心の風邪」キャンペーンでしょう。

ざっと調べた所では、これはどうやら1999年に、デプロメール(=ルボックス)を売り始める際、明治製菓がひねくりだしたキャッチフレーズのようです。

このキャンペーンによりうつ病の患者様が精神科/心療内科を受診しやすくなった(そして抗うつ薬の売り上げも伸びた)という「功」が強調されることが少なくありませんが、「罪」の方が大きいだろうというのが私の個人的意見です。

患者様に、「うつ病とは一過性の病気で、短い期間だけ薬を飲んで休んでいれば治る病気である」というイメージを持たせてしまったように思うからです。

精神科医の大半は薬をだらだらと出し続けるつもりでおり、患者様は薬を飲めばうつ病はすぐに良くなり元通りの生活が出来ると思っている――単純化すれば、「うつは心の風邪」キャンペーン以降、そういった構図が精神科臨床の現場に出来上がってしまいました。

そのどちらの考え方も間違っています。

うつ病は再燃・再発のリスクが高い慢性疾患であって、「風邪」のような一過性の病態からは程遠いものです。
しかし一方で、だからといって漫然と薬を出し続けていいというものでもありません。

医師を正しく教育し、患者様を正しく啓蒙する必要が、日本のうつ病の臨床にはあるように思われます。


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2011年12月09日

うつ病の治療(抗うつ薬)をいつ止めるか (3)

一般論で申し上げれば、うつ病には「治癒」という概念はありません。
もう薬を飲まなくても絶対に再発する可能性は無い、という状態にはならないということです。

近年うつ病は、高い確率で再発する反復性・慢性の疾患として捉えられるようになってきています。
ただずっとうつ状態ということを意味するわけではなく、「寛解」と「回復」という概念があり、この回復をいかに保つかが慢性期のうつ病治療、すなわち維持療法の肝となります。

この有名な図をご覧ください。
http://www.e556e556.com/qa/depression_remission.gif

うつ病の急性期に抗うつ薬治療を行うと、半数の患者様は3ヶ月以内に「寛解」(うつ症状がない状態)に至ります。
ただ、ここで喜んで治療をやめてしまう高い確率で「再燃」します。
このため寛解後3~9ヶ月間は抗うつ剤の量を減らさずに維持療法を行います。その間に症状が現れなければ「回復」とみなされます。

多くの研究では回復後も維持療法を続けることで再発率が下がり続けることが示されています。
ただ、臨床的には、多くの場合、回復まで至れば薬の中止を考えてよいでしょう。それでも、順調に進んだ場合であっても1年間は抗うつ薬を飲むことになります。

ここまでが一般論です。
これをいかに患者様に個別化して、どのように薬物療法の中断と二次的に生じた問題の解決を行っていくかが、精神科医の腕の見せどころ、ということになるでしょうか。


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