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2007年10月 アーカイブ

2007年10月05日

睡眠薬と安定剤の正しい止め方 (9)

昨日の大阪は暑かったです。
学会は今日が最終日。収穫があったらこのブログ上で報告します。

今日は「睡眠薬と安定剤の正しい止め方」の番外編。文献の紹介です。
Stephen M. Stahlの「暗黙の了解:ベンゾジアゼピンは 今でも不安障害治療の主要治療薬」

Journal Clinical Psychitryという米国の専門誌があります。
米誌でも有名どころでインパクト・ファクターも高く,日本の臨床家にもよく読まれている(ことが望まれる)雑誌ですが,この巻頭に「Brain Storm」という名物コラムが連載されています。「暗黙の了解:ベンゾジアゼピンは 今でも不安障害治療の主要治療薬」はその一編。

で,その和訳がWeb上にアップされていて,誰でも合法的にアクセスすることができます。

ここまで,米国ではベンゾジアゼピン系抗不安薬・睡眠薬の使用が少ないことをこのブログ上でも強調してきしてきましたが,もちろん全く使われていないわけではありません。それどころか実は……というのが「暗黙の了解:ベンゾジアゼピンは 今でも不安障害治療の主要治療薬」の内容。

Stahlの文章は分かりやすいので,非専門家が読んでも十分理解できると思います。Stahlはベンゾジアゼピンの短絡的な否定論に懐疑的なスタンスですが,それでも日本のような長期大量漫然投与を推奨しているわけでもありませんね。

Stephen M. Stahlは,毀誉褒貶はあるようですが,米国における臨床精神薬理学の第一人者で,「精神薬理学エセンシャルズ―神経科学的基礎と応用」「精神科治療薬処方ガイド」といった著書があります。
どちらも専門書で(それゆえに高額で),内容も高度なのですが,わかりやすさは随一。私は名著だと思いますね。
向精神薬を理解する上で,コメディカルスタッフや患者さんにもお勧めです。


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2007年10月11日

ジプレキサと体重増加・糖尿病 (1)

メンタルヘルスブログランキング 現在37位

加入しているメルマガで2~3日前に知りました。
「え,今さら?」というのが正直な感想です。


Eli Lilly社 他の非定型抗精神病薬に比べてオランザピンは血糖上昇を引き起こすリスクがより高いことを初めて正式に認めた

2007 年10月5日、Eli Lilly and Co(イーライリリー)は、統合失調症や双極性障害の治療に使用される非定型抗精神病薬・オランザピン(olanzapine)は他の一部の非定型抗精神病薬に比べて血糖上昇を引き起こすリスクがより高いことを初めて正式に認め、Zyprexa(ジプレキサ;olanzapine、オランザピン)やオランザピンとフルオキセチンの合剤・Symbyax(olanzapine/fluoxetine HCl)の添付文書(製品レーベル)にその注意を含む新たな安全性情報を追加したと発表しました。(引用:BioToday


BioTodayの会員ではないので全文は読めていないのですが,何をかいわんや,と現場の精神科医ならば誰でも感じるニュースでしょう。

向精神薬,中でも抗精神病薬では副作用のひとつとして体重増加や血糖上昇,脂質(コレステロールや中性脂肪)上昇がしばしば問題になります。
そして中でもイーライリリー社のジプレキサ(オランザピン)は,処方する方が驚くほど急激に,これらの指標の大幅な上昇を引き起こします。

しかし確かに製造・販売元のイーライリリー社は,このことを否認し続けてきました。

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2007年10月13日

ジプレキサと体重増加・糖尿病 (2)

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現在日本で使用できる非定型抗精神病薬と括られる薬の中でも,ジプレキサ(olanzapine,オランザピン)で体重の増加や血糖・血中脂質(中性脂肪やコレステロール)上昇といった代謝系の副作用がもっとも強いことは,精神科医のほとんどが,そして何よりこの薬の投与を受けている患者さんが,実感されているところなのではないかと思います。

実際,この薬は発売されてから1年後には糖尿病を合併する患者さんに対する投与が禁忌になりました。

私は病院に出入りするイーライリリー社のMRに,この問題に対する同社のスタンスを何度か尋ねたことがあります。
端的に言うと,彼はジプレキサの「有罪」を一度も認めませんでした。

また,イーライリリー社が主催する講演会にも何度か顔を出しましたが,演者(多くの場合は同社が招聘した大学病院の教授や外国人医師でした)は,この問題に触れつつも,たくみにジプレキサの有効性に話題を向け,この薬によって患者さんが得られる利益が不利益を上回るというロジックを展開するのが常でした。

私が認識している限り,同社がジプレキサの代謝系副作用に対してとってきたスタンスは以下の2点に要約されます。

  1. 体重増加や血糖上昇はジプレキサだけで見られる問題ではなく,全ての抗精神病薬で認められる副作用である。よって,精神科医は,ジプレキサを処方した場合のみならず,統合失調症の治療を行う際はすべからく代謝系の副作用に敏感になるべきである。

  2. ジプレキサは陽性症状のみならず陰性症状や認知機能障害といった統合失調症の広範な症状を改善する。患者さんのQOLを高めるその画期的な有効性は,欠点を補って余りあるものである。

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2007年10月17日

ジプレキサと体重増加・糖尿病 (3)

メンタルヘルスブログランキング 現在22位

パキシルの,メジャーでマイナーな副作用」でも指摘したように,こうしたやり方は製薬会社の常套手段になっています。

ジプレキサ体重の増加や血糖上昇が他の非定型抗精神病薬よりも多いことを示した研究は国内外で枚挙にいとまがありませんが,そうした指摘を,イーライリリー社は「ジプレキサと体重増加・糖尿病 (2)」で述べたような強弁で切り抜けようとしてきました(その試みは明らかに失敗していると思いますが)。
または,このようなやり方で,本来は不利なデータを,自分たちに有利な結論を導くために独特の解釈を加えてリリースしたりもしています。

CATIE試験のフェーズ2で判明
統合失調症患者の薬物治療を長続きさせる主要因は症状の改善度

- 副作用ゆえに脱落する患者は少数派 -

2006年4月12日:プレス発表資料
抗精神病薬「ジプレキサ」(一般名オランザピン)の効果は治験薬中トップクラス
>>>本文


ここで取り上げられているCATIE試験とは,米国立精神衛生研究所(NIMH)が主導した大規模研究で,非定型抗精神病薬の臨床的有用性を検証することを目的としています。
実はこの試験の結果においてもやはり,ジプレキサを投与された統合失調症患者さんでは,他の抗精神病薬を投与された患者さんに比べて,体重増加や血糖上昇,脂質上昇といった代謝性の副作用が多かったことが示されているのです。

イーライリリー社は,「しかしそういった副作用を理由にジプレキサを中止した患者は少なかった。だからやはりジプレキサの有効性が高く評価されるべきだ」と主張しているのです。

CATIE試験の概要については,自由人しんすけさんの「ARE U FUNNY BOYS & GIRLS ? 」というブログによくまとまった記事が載っていましたので是非ごらんになってみてください。試験主導者の考え方がイーライリリー社の主張とはまったく違ったものであることがおわかりになると思います。

>>>ジプレキサと体重増加・糖尿病 (4)


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2007年10月30日

ジプレキサと体重増加・糖尿病 (4)

メンタルヘルスブログランキング 現在28位↓

CATIE試験の結果をもって,日本イーライリリー社がジプレキサ(オランザピン)の有用性を主張することには,少なくとも以下の2つの問題があります。

  1. CATIE試験の試験期間は18ヶ月だが,対象となった統合失調症は慢性疾患であって,患者さんは生涯に渡って服薬を続ける必要がある。

  2. CATIE試験は米国の試験であり,対象となった患者さんはすべてアメリカ人である

まず1.ですが,たった1年半の試験期間においても,ジプレキサによってもたらされる体重増加血糖上昇脂質上昇といった副作用の頻度が高いことは明らかにされているわけです。

この薬を,20年,30年と飲み続けた患者さんの体には何が起こるのでしょう?

誰にもわかりません。
米国ですらジプレキサが発売されたのは1996年です。つまり11年を超えてこの薬を飲み続けた患者さんは世界中を見回しても存在しないのです。

一方で,内分泌・代謝内科の分野の研究では,年余に渡る血糖や脂質の上昇が確実に寿命を縮めることを明らかにしています。
空腹時血糖が126mg/dlを超えると「糖尿病型」の血糖値とみなされますが,そこまで至らなくても,正常域内で血糖が上昇するだけで将来の心血管系の疾患(脳卒中や心筋梗塞)の発症リスクが飛躍的に高まることが知られているのです。

ジプレキサを服用している患者さんの空腹時血糖値が80mg/dlから100mg/dlに上昇したとします。
正常値なので,主治医がこれを理由にジプレキサを中止する可能性は低いでしょう。
しかし,空腹時血糖値が80mg/dlのまま20年を経過した場合と,100mg/dlで経過した場合とでは,20年後,30年後のの患者さんの健康度はまったく違ったものになっている可能性が大なのです。

>>>ジプレキサと体重増加・糖尿病 (5)


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