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患者さんが自分の紹介状(診療情報提供書)を読んでよいか? アーカイブ

2007年12月27日

患者さんが自分の紹介状(診療情報提供書)を読んでよいか? (1)

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いま進めている「睡眠薬と安定剤の正しい止め方」が終わるまでは寄り道しないつもりでいたのですが,鹿太郎さんからいただいたコメントが印象的で,色々と調べてみたところ,私としても意外な発見があったので記事にしてみることにしました。

患者さんが何らかの理由で転院する場合,前医が,次に受診する医療機関宛に紹介状(診療情報提供書)を作成することが少なくありません。
特定機能病院を受診する際,初診患者が紹介状を持っていないと特定療養費を請求されることがありますし,よりプラクティカルな視点から考えても,新主治医にしてみれば,紹介されてきた患者さんの病歴や薬歴がわかっていた方が治療はしやすいでしょう。

私個人としては,紹介状を作成することも受け取ることもありますが,基本的には患者さんが次の医療機関を受診する前に紹介状を開封して(鹿太郎さんの紹介状は封もされていなかったようですが)中身を読んでしまってもかまわないと思っていました……というか,今でも思っています。

もちろんこれはケース・バイ・ケースで,精神科に限らず,病名告知のような倫理的に複雑な問題が絡んでいるような場合には,診療情報提供書の内容を患者さんご自身に開示すべきではないと判断することもあります。
しかしそういった場合は,紹介状をご家族に託すか,紹介先に郵送すればよいだけのことです。
医療者側が,文書作成料を頂いたうえ,患者さんに,その患者さんご自身の病歴を記載した文書を運んでいただくという非常に図々しいやり方をとっているかぎり,それを患者さんに読むなというのはむしろ酷なような気もします。

読まれて困るようなことを書かないか,読んで患者さんが不愉快に感じたとしても(それが医学的な事実であって,かつ新主治医にとって有用な情報なので)敢えて記載するのだと割り切って,私は紹介状を書いています。

ところがざっと調べてみたかぎり,これはそれほど単純な問題ではないようです。

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2007年12月28日

患者さんが自分の紹介状(診療情報提供書)を読んでよいか? (2)

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今日はもう遅いので寝ますが,法律論やら医師会の「診療情報の提供に関する指針」やらに触れる前に,さらに寄り道をして,まず鹿太郎さんのコメントのご質問部分にお答えしておきます。

薄々おわかりかとは存じますが,傷病手当金請求書を書いてもらうためのマナーなんてありません。
文書料を払うわけですし,患者さんとしては当然の権利です。
医師の記載に過不足があり,かつそれが医学的に正しかったために傷病手当金が受け取れないことはありえますが,傷病手当金請求書を書くこと自体はまともな医者なら拒まないだろうと思います。

ただ,あくまで鹿太郎さんのコメントを読んだかぎりで判断させていただくのであれば――
その医者,まともじゃないですよね。

クリニックだということなのでその医者が一国一城の主なのでしょうし,理不尽を訴え出られる先があるわけではないので,その医者とやりとりをしても不毛です。病状にも障りかねません。

精神科医というのは(心療内科医も)変わった人が多いので,まともな医者を探すのは大変なのですが,もう少し相性が良い病院やクリニックはいくらでもあるような気がします。

別の医療機関を探すか,元の主治医に文書だけでも書いてもらえないか頼むのが(これも別にマナー違反ではありません)ベターではないかというのが私の個人的意見です。
ご参考になれば幸いです。

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さて,これまであまり気にしたことがなかった紹介状(診療情報提供書)の法的位置づけですが,どうやらこれは「信書」もしくは「私文書」ということになるようです(もし違っていたらご指摘下さい)。
一応ソースは「ほその司法書士事務所無料法律・登記相談」と「病院を転院する際の紹介状について - Yahoo!知恵袋」です。

これを単純に解釈すると,紹介先の医師に渡す前に,紹介元の医師が作成した診療情報提供書を患者さんが読んでしまうのはマナー違反どころか違法行為にもなりかねないということになります。

また,患者さんが紹介状を読むことによって紹介元――つまり紹介状を作成した側の医師とトラブルになることが精神科領域では稀ならずあります。
seisinka_sumoという精神科のドクターが,運営されている「精神科と大相撲といろいろ」というブログの「捨て台詞。」という記事で,典型的なエピソードを紹介なさっています。
依存症や人格障害圏の患者さんがらみではしばしばこうした問題が生じますし,やはり医者の側としても愉快な経験ではありません(かといって,こういった患者さんだからこそ正確な情報を紹介先に伝える必要があるので,いい加減な内容で済ますわけにもいきません)。

この文脈で考えると,鹿太郎さんに対して癇癪を起こしたドクターの「マナー違反だ」という主張の部分だけは間違ってはいないことになります。
もっとも,そこまでヒステリックな態度をとることは社会通念上問題があると思いますし,それを理由に診察を拒否したのは応召義務違反に当たりそうですが。

では絶対に患者さんは自分に関して書かれた紹介状の内容を知ることができないのかというと全然そんなことはなさそうだ,というところにこの問題の複雑さがあります。

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日本医師会が,「診療情報の提供に関する指針」というステートメントを発表しています。
これは主に医療機関から患者さんに診療記録(カルテなど)を開示する場合の指針なのですが,医師間で患者さんを紹介する場合の医師会のスタンスについても記述した部分があります。
長くなりますが,そのまま引用します。

「指針4-1関係

 この項は、日本医師会第IV次生命倫理懇談会報告の「4(2) 医師相互間の関係」の提案を明文化したものである。専門家と非専門家との協力、診療所と病院との連携、したがって、それに伴う転医が、病院と診療所相互間で、今後、益々盛んになることが予想される。また、患者が第二医の意見、第三医の意見を求めることを希望する場面も、今後、多くなるものと思われる。

 それらの中で、転医先あるいは紹介先の医師等が、その患者を以前に診療した、若しくは現在診療している医師に対して、診療上必要とされる診療情報等の提供を求める際に、備えるべき条件と手続きについて定めたのがこの指針である。周知のとおり、医師は自分が診療した患者、患者情報等について、守秘義務を負っている。したがって、患者本人以外の第三者に診療情報を提供する場合には、原則として本人の同意が必要である。この原則は、医師が他の医師に診療情報を提供する場合にも当てはまる。そこで、医師が他の医師に対して、診療上必要とされる診療情報の提供を求める場合には、患者本人の同意を得て行うべきであるとしたのが、a項である。これに対して、b項は提供を求められた医師に、同意の存在の確認を求めるとともに、各種検査記録、エックス線写真などを含めて、提供を求める医師が必要とする診療情報を提供すべきことを定めたものである。医師相互間の診療情報の提供に際しては、診療記録等の管理者としての責任を全うし、円滑な診療情報の交換を推進するため、できる限り、医師相互間で直接に、検査記録等の写しの受け渡しをすることが望ましい。

 指針〔4-1〕の精神は、他の医師へ患者を紹介する際の情報提供などについても参酌されるべきである。

小難しい文章ではありますが,太字部分を素直に読むと,紹介状を書く場合には,まず患者さんから,個人情報を第3者(紹介先の医師)に提供することへの同意を得なければならないことになります。

紹介状の詳細な内容に関しても患者さんの同意を得るべきかどうかはこの指針には書かれていませんが,何らかの事情で転院することになった患者さんに「紹介状を作成しますが,いいですか?」と確認して,「どんなことを書くんですか?」と聞き返されたら,ある程度の内容は明かさざるを得ないような気がします。

例えば人格障害や依存症の診断が付き,かつあまり筋の良ろしくない患者さんに「紹介状の内容が納得できるものでなければ作成に同意しない」と食い下がられたら,かなり苦慮しそうです(「では紹介状は書きません」と答えたら,そのことで患者さん側に生じる不利益への保障(端的には,特定療養費とか)を求められそうな気がしますし)。

実は私が(も)ごく稀に使う手ですが,患者さんに手渡す紹介状の内容は当たり障りのないものにして,詳細な情報は別途郵便やファックスで送ることがあります。
しかし医師会の指針を四角四面に解釈するならば,このやり方は守秘義務違反ということになるのでしょうか。

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2007年12月31日

患者さんが自分の紹介状(診療情報提供書)を読んでよいか? (5)

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しかし一方で,前記事で首記したように,日本医師会が発表した「診療情報の提供に関する指針」は医療機関から患者さんに診療記録を開示する場合の指針です。

詳細はリンクしたサイトをお読みいただくとして(苦行ですが),まず「3-3 診療記録等の開示による情報提供」に「医師および医療施設の管理者は、患者が自己の診療録、その他の診療記録等の閲覧、謄写を求めた場合には、原則としてこれに応ずるものとする」と記載されています。
つまり,医療機関側は,患者さんに求められれば診療記録等を患者さんにお見せしなければならないということです。

但し,要求されたらその場でただちに開示しなければならないというわけではありません。


3-5 診療記録等の開示を求める手続き
a 診療記録等の開示を求めようとする者は、各医療施設が定めた方式にしたがって、医療施設の管理者に対して申し立てる。

3-7 医療施設における手続き規定の整備
医療施設の管理者は、診療記録等の開示請求、実施、費用請求等に関する規定および申し立て書等の書式を整備する。


という記載から判断すると,医療機関側が,開示のための書類を用意し,患者さん側はそれに必要事項を記入して提出する形で診療記録等の開示が行われることになります。

ではさて,紹介状(診療情報提供書)は,この指針の文脈ではどのような扱いになるのでしょうか。

診療情報の提供に関する指針」には開示すべき「診療記録等」の定義も明示されていて,「診療録、手術記録、麻酔記録、各種検査記録、検査成績表、エックス線写真、助産録、看護記録、その他、診療の過程で患者の身体状況、病状等について作成、記録された書面、画像等の一切」となっています。
紹介状(診療情報提供書)については記載がありませんが,「診療の過程で患者の身体状況、病状等について作成、記録された書面」には含まれるような気がしますね。

実は医師会とは別に,厚生労働省でも類似の議論が行われていて,平成15年6月10日に発表されている「『診療に関する情報提供等の在り方に関する検討会』報告書」では,「『診療記録」とは、診療録、処方せん、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、紹介状、退院した患者に係る入院期間中の診療経過の要約その他の診療の過程で患者の身体状況、病状、治療等について作成、記録又は保存された書類、画像等の記録をいう」と,紹介状は「診療記録」に含まれることが明確に定義されています。

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2008年01月03日

患者さんが自分の紹介状(診療情報提供書)を読んでよいか? (6)

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日本医師会の「診療情報の提供に関する指針」や厚生労働省の「『診療に関する情報提供等の在り方に関する検討会』報告書」にどの程度の法的拘束力や罰則があるのかは存じませんが,これまでのことをまとめるならば以下のようになります。

普通,紹介状(診療情報提供書)を介した患者さんの紹介は以下のような手順で行われます。
①紹介元の医師がある患者さんの紹介状(診療情報提供書)を作成→②その患者さんが紹介状(診療情報提供書)を持参して紹介先の医療機関を受診→③紹介先の医師が紹介状(診療情報提供書)の内容を確認の上,患者さんを診察。

まず,②のプロセス――患者さんが紹介元の医師から紹介状を受け取り,紹介先の医療機関に手渡すまで――において患者さんが紹介状の中身を見ることは,法的にも倫理的にも望ましいことではないようです。

③以降は,紹介先の医師が診療情報提供書をカルテに綴じ込んで「診療記録等」の一部にしてしまいますから,それを閲覧するためにはその医療機関が定めたルールに従って開示を求める必要があります。

①でも,紹介元の医師は患者さんの同意の上に紹介状を作成した時点で,控えをカルテに綴じ込みます。それ以降はその控えは紹介元の医療機関の「診療記録等」になりますから,やはりそれを閲覧するためにはその開示要求手続きが必要です。

患者さんが自分についての紹介状の中身を知るもっともシンプルな方法は,だから,①以前に,どういった内容の紹介状を作成するのかを紹介元の医師に確かめ,可能なら封筒に入れる前に閲覧させてもらうことでしょう。
心理的なハードルは高いかもしれませんが。

何だか事務的というか,医師-患者関係も世知辛くなったものだというのが,今回この問題を調べてみての感想です。

(この項終わり)

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