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双極性障害(躁うつ病) の診断と治療 アーカイブ

2008年08月02日

双極性障害(躁うつ病)の診断と治療 ―典型的な治療失敗例(疑)を通じて― (1)

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私の悪い癖ですが,現在進行中の「睡眠薬と安定剤の正しい止め方」が完結しないうちにまた別のシリーズを開始することにしました。
理由は,二重の意味で,私が記事を寄稿しているメールマガジン「メンタルクリニック.mail」です。

ひとつめの理由は,メルマガの水曜版で本ブログにタマゴ丼さんからいただいたご質問に回答しているうちに,「睡眠薬と安定剤の正しい止め方」で示すべき最終結論がより明確になってきたことです。
どうやら,この件についてはメルマガを先行させた方が良い結果が得られそうだと思えてきました。

ふたつめの理由は,メルマガを通じて知り合ったある精神科医とこの話題で盛り上がり,彼がこのテーマ――双極性障害(躁うつ病)の診断と治療でブログに記事を書くことを強く勧めてくれたからです。
やや話が複雑になりますが,正確を期するならば,彼――S医師としましょう――とはメルマガを通じて知り合ったわけではありません。
私は以前に,別のところでやはり精神医学をテーマにしたブログを個人で運営していました。
S医師はそのブログのある記事を読み,関心をもってくれて,以来しばらくの間はメールのやりとりなどをしていたことがあるのです。学会で実際に会ったことも2度ほどあります。

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2008年08月03日

双極性障害(躁うつ病)の診断と治療 ―典型的な治療失敗例(疑)を通じて― (2)

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前置きの付け足しから始めますが,S医師が私にこの記事の再録を強く勧めた理由のひとつは彼自身が感じているフラストレーションであるとのことです。

彼は現在は臨床を離れて関西某所で研究職に就いているのですが,週に1回,神戸市内の病院で外来のアルバイトをしています。
他医から引き継いだり,他院から紹介された患者さん診察しているわけですが,特に双極性障害(躁うつ病)の患者さんについては治療のレベルが低く,処方に至っては百害あって一利なしとも言えるものばかりで,医療の態をなしていない,というのが関西で臨床を始めたS医師の見解です。

後に述べますが,双極性障害(躁うつ病)の診断・治療への精神科医の意識の低さは関西に限った問題ではありません。ただ,「マンガ お手軽躁うつ病講座High&Low」「マンガ境界性人格障害&躁うつ病REMIX 日々奮闘している方々へ。マイペースで行こう!」の著者のたなかみる氏は関西の方で,治療を受けているのも関西の病院なんですよね(病院名入りで主治医が実名で後書きを寄せています)。

まあ,そのあたりにバイアスがあるかもしれないことを念頭に,以降の記事をお読み進みいただけますと幸いです。


いろいろな意味で興味深く,勉強になる……というか,考えさせられる本を読んだので,レビューかたがた,双極性障害(躁うつ病)の診断と治療について考えてみたいと思います。

読んだ本というのは「マンガ お手軽躁うつ病講座High&Low」と,その続編である「マンガ境界性人格障害&躁うつ病REMIX 日々奮闘している方々へ。マイペースで行こう!」
発行元は医学書の専門出版社である星和書店で,作者はたなか みる氏(女性)。

      

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2008年08月07日

双極性障害(躁うつ病)の診断と治療 ―典型的な治療失敗例(疑)を通じて― (3)

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「最近は躁鬱病が医療業界でもトピックになっていると書かれていましたが、どうしてですか?」というご質問をyoshiからいただきました。
理由は主に2つです。
①この疾患は診断が付くまでにかなりの時間がかかり,患者さんはその間に不適切な治療を受けて難治化してしまう。
②多くの精神科医のこの疾患の治療に関する理解度の低さのために,双極性障害(躁鬱病,躁うつ病)の診断がついてもなお,不適切な治療が続けられ,患者さんがますます難治化する。
これらの原因で患者さんのみならず社会が蒙る損失が莫大なものであることが近年わかってきたのです。

今日の記事はちょうど①に関連した部分です。
参考になれば幸いです。


%E3%83%91%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%AB_%283%29.jpg双極性障害_躁うつ病_躁鬱病_パキシル_躁転_神戸_精神科_心療内科2冊の本を通じて,たなか氏がまずうつ病と診断され,次に双極性障害(躁鬱病,躁うつ病)に診断が変わり,さらには境界性人格障害が併存症として加わる,という経過が描かれています。

最後の境界性人格障害についての議論は置いておくとして,たなか氏が双極性障害(躁鬱病,躁うつ病)と診断されるまでのくだりは,この病気の典型的な経過を非常によく捉えています。

双極性障害の患者さんが双極性障害と診断されるまでにかかる時間はどれくらいでしょう?

例えば,典型的なうつ病や統合失調症ならば,患者さんご本人を診察し,ご家族から情報を得られれば,初診で確定診断を下すことは難しくはありません。
診断に必要な時間が1時間を超えるということはないでしょう。

では双極性障害(躁鬱病,躁うつ病)の場合はどうか?
複数の研究が行われていますが,見解は概ね一致しています。
大雑把に言って,双極性障害の発症から確定診断までに要する時間は10年です。
10分でも10ヶ月でもなく,10年。

これは,現代精神医学の限界を端的に表す数字であると言えます。

 

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2008年08月11日

双極性障害(躁うつ病)の診断と治療 ―典型的な治療失敗例(疑)を通じて― (4)

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うつ病に対して第一選択で行われる薬物療法は,抗うつ薬の投与です。
この場合はうつ病は狭義のうつ病――単極性のうつ病のことです。

うつ病に対して抗うつ薬が有効であることについては,膨大な研究成果によって証明されているといってよいでしょう。

では,双極性障害(躁うつ病,躁鬱病)のうつ状態(双極性うつ病)に対してはどうでしょう。

ぱっと見だけでは単極性うつ病と区別がつかない双極性うつ病に対して,抗うつ薬は有効でしょうか?

YesともNoとも言えないのが現状です。

双極性うつ病のうつ状態はこれまで"neglected disorder(無視された病気)"であったと言われています。

双極性障害(躁うつ病,躁鬱病)の研究は躁状態を中心に行われ、近年までうつ状態については軽視されてきた傾向があります。
双極性うつ病に対しても,漠然と,単極性うつ病と同じ治療が行われてきました。

しかし最近になって精力的に行われてきた研究によって,双極性うつ病は単極性うつ病とは異なる戦略によって治療されなければならないことが示されてきています。

端的に言えば,抗うつ薬は――少なくとも抗うつ薬単独による治療は,双極性うつ病に対しては無効か,有効であったとしても害が大きいということが証明されています。

では,単極性のうつ病と同様に抗うつ薬単独での治療が双極性障害の患者さんに対して行われた場合,どのような害があるのでしょう?

「マンガ お手軽躁うつ病講座High&Low」「マンガ境界性人格障害&躁うつ病REMIX 日々奮闘している方々へ。マイペースで行こう!」の両冊を通じて描かれているたなか氏の病状は,その「双極性障害の治療における抗うつ薬の害悪」を非常にうまく描写しています。

 

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2008年08月15日

双極性障害(躁うつ病)の診断と治療 ―典型的な治療失敗例(疑)を通じて― (5)

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双極性障害(躁鬱病)において抗うつ薬単独での治療を行った場合に現れるマイナスの結果のひとつとして、前回は「急速交代化」を取り上げました。
今回は「混合状態」です。

これまた典型的な病像が「マンガ お手軽躁うつ病講座High&Low」「マンガ境界性人格障害&躁うつ病REMIX 日々奮闘している方々へ。マイペースで行こう!」に描写されています。

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混合状態とは躁と欝が混合した状態ということで、現在主流となっている操作的診断基準であるDSM-IV-TRICD‐10では、混合性エピソードの名のもとに「少なくとも1週間の間、ほとんど毎日大うつ病と躁病のエピソードを満たす」と定義されています(かなり端折ってます。詳細はDSM-IV-TRあたりをご覧になってみてください)。

患者さんやそのご家族にとって、これはかなりしんどい状態です。

急速交代化ですら、患者さんはジェットコースターのような感情の起伏に振り回されてかなりの消耗を強いられますが、混合状態では1日のなかで躁や欝の症状が頻繁に現れ、社会適応を大きく損ないます。

 

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2008年08月24日

双極性障害(躁うつ病)の診断と治療 ―典型的な治療失敗例(疑)を通じて― (6)

双極性障害(躁うつ病,躁鬱病)と境界性人格障害の鑑別診断に関する基礎知識をつけていただくために,今回は,いっとき「マンガ お手軽躁うつ病講座High&Low」「マンガ境界性人格障害&躁うつ病REMIX 日々奮闘している方々へ。マイペースで行こう!」から離れて,医学論文のレビューをしてみることにしましょう。
文字ばっかりになりますがご容赦ください。

「精神科治療学」という雑誌の2005年11月号に,自治医科大学の阿部隆明先生と加藤敏先生が書かれた「双極性障害と境界性人格障害の鑑別と共存」というそのものずばりの論文が載っています。

まずは抄録(論文のあらすじみたいなものです)を以下に引用します。

「近年,境界性人格障害と双極性障害の鑑別が重要視される背景には,操作的診断に基づいた境界性人格障害の安易な診断と,境界性人格障害様症状を呈する双極性障害の増加がある。
とはいえ,境界性人格障害の診断基準に掲げられたほとんどの症状は感情障害でも観察されるために,両者の鑑別と共存が問題になる。
とりわけ,双極Ⅱ型障害のうつ病相や気分循環性気質などの微細な躁的因子を内包する病態で,境界性人格障害様の症状は出現しやすい。
この場合は,同一性の障害や特有の防衛機制の有無などに注意を払い,境界性人格障害と鑑別して気分安定薬中心の処方をする必要がある。
他方,境界性人格障害に双極性障害が合併するケースでは,境界性人格障害の人格病理を踏まえた精神療法的な対応に加え,同時に存在する双極性障害にも目配りし,薬物療法的な配慮を忘れてはならない」

ちょっと難しいですね(笑)。

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ようするに,双極性障害(躁うつ病,躁鬱病)の経過中に境界性人格障害を思わせるような症状が出現することがしばしばあるので診断には慎重にならなければならない,というようなことが書かれています。
一方で,双極性障害と境界性人格障害がそれぞれ独立した疾患として同じ患者さんに併存することもあるので,その場合は両者のバランスを考えた治療が必要になります。

以下に,この論文の本文をできるだけわかりやすく要約してみましょう。

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2008年08月27日

双極性障害(躁うつ病)の診断と治療 ―典型的な治療失敗例(疑)を通じて― (7)

ここからはいよいよ「マンガ お手軽躁うつ病講座High&Low」「マンガ境界性人格障害&躁うつ病REMIX 日々奮闘している方々へ。マイペースで行こう!」においてたなか氏に施されている(そして現在も施されているであろう)治療の問題点について述べていきたいと思います。

双極性障害(躁うつ病,躁鬱病)がなかなか診断が難しい疾患であることは既に述べました
双極性障害と診断が付くまでは多くの患者さんが単極性うつ病と診断され,抗うつ薬単独による治療を受けます。
そのために,急速交代化混合状態といった病像が出現し,治療が難しくなることがありますが,現代の精神医学の水準では,これを,誤診に基づく誤った治療によって引き起こされた合併症と断じることは酷です。

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双極性障害患者の大多数がうつ病相で発症し,その病像を単極性うつ病と鑑別することは不可能だからです。
将来,外面に現れた症状だけからでなく,なんらかの客観的な検査所見によって精神疾患の診断が付けられるようになるまでは,この問題の解決は難しいでしょう。

よって現在とりうる最善の策は,双極性障害の診断が付いた時点で出来るだけ早く双極性障害用の治療を開始することです。

 

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2008年09月02日

双極性障害(躁うつ病)の診断と治療 ―典型的な治療失敗例(疑)を通じて― (8)

さて,たなかみる氏が双極性障害(躁うつ病,躁鬱病)と診断されたうえで施されている治療の内容についてです。

双極性障害_躁うつ病_躁鬱病_パキシル_躁転_神戸_精神科_心療内科

結論から言うと,たなか氏は双極性障害(躁うつ病,躁鬱病)と診断されているにも関わらず,気分安定薬(ムードスタビライザー)を飲まれていません。
ここに描かれているように,その時々の状態に応じて,たなか氏みずから判断して(もちろんそれは病状があるていど安定している場合なのでしょうが),必要と思われる薬の処方を主治医に求める,というスタイルになっているようです。

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これは必ずしも批判されるべき処方のあり方とは言えません。
患者さんの病識(自分が病気であり,治療が必要だと認識すること)が十分にある場合,そして治療歴が長くなって患者さんがいくつかの薬の効き目や副作用をそれこそ「体得」している場合には,必要な薬の種類や量を,患者さんの方が的確に判断できることはたしかにあります。

しかし,たなか氏の場合はどうでしょう。

 

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2008年09月11日

双極性障害(躁うつ病)の診断と治療 ―典型的な治療失敗例(疑)を通じて― (9)

双極性障害_躁うつ病_躁うつ病_パキシル_メンタルクリニック_精神安定剤うつに対しては、案の定というか、抗うつ薬が用いられています。

パキシルによる治療経過中に起こった躁転を機に双極性障害へと移行した患者さんなのでパキシルは使いづらいのかもしれませんが、実は数ある抗うつ薬の中で双極性障害のうつ状態への有効性と安全性がもっとも検討されているのはSSRI、なかでもとりわけパキシルです。

ただ、抗うつ薬に関しては相性もあるわけですし、大規模試験で好結果が出た薬が全ての患者さんに良い結果をもたらすわけでもありませんから、抗うつ薬のチョイスに関して多くを語るつもりはありません。

どのみち、十分量の気分安定薬によるベースの治療がなされていないかぎりは、どの抗うつ薬が用いられたとしても、百害あってようやく一利があるくらいです。

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2003年に双極性障害の権威が集まって行われた国際会議の結果から書き起こされた論文がJournal of Clinical Psychiatryという雑誌に掲載されていますが("International Consensus Group on Bipolar I Depression Treatment Guidelines" 2004 Apr;65(4):571-9)、この会議上、双極性障害のうつ状態に対する臨床医の意識が低く、抗うつ薬単独による治療が未だに広く行われていることがこの分野における国際的な問題であることが指摘されています。

 

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2008年09月22日

双極性障害(躁うつ病)の診断と治療 ―典型的な治療失敗例(疑)を通じて― (10)

前記事では,「マンガ お手軽躁うつ病講座High&Low」「マンガ境界性人格障害&躁うつ病REMIX 日々奮闘している方々へ。マイペースで行こう!」で描かれているたなかみる氏の主治医(恐らく実在の人物……というか、阪南病院の医師で、実名で巻末に「発刊に寄せて」という文章を載せています)に精神科薬物療法の基本的な知識が欠けていると結論づけました。

なんて傲慢な奴だと思われた方も多かったかもしれませんが,実のところ,日本の精神医学の総体的なレベルの低さをいちばん知っているのは精神科医自身です。
私が思うところを書き連ねるよりはよほど現状を端的に表した記事が2006年9月27日の毎日新聞に載っていたので,これをとっかかりにお話を進めることにしましょう。

「うつ病:適切な治療を受けているのは1/4 学会,研修の実施検討」と見出しがつけられたこの記事では,中根允文・長崎大学名誉教授,樋口輝彦・国立精神神経センター院長,野村総一郎・防衛医科大学校教授といった大御所のコメントをうまく引用して精神医学の現状を描出しています(新聞記事なので遠からずWeb版のリンクは既に切れています。少し長くなりますが,この記事のいちばん下に全文をコピペしておきます)。

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これはうつ病の治療についての記事であるわけですが,日本の精神医学がうつ病に関してだけこれほどプアで,他の病気については充実しているということはありえないわけなので,要するにこの記事は日本の精神医学のレベルはこの程度である,ということの証左と言えます。

最初のパラグラフからして,「うつ病の治療法をきちんと知らない精神科医が多いという」。
「心の風邪」の治し方を知らない精神科医が多いわけです。
いちおうは「精神疾患は統合失調症,パニック障害,アルコール依存症など多岐にわたり」というフォローが入っていますが,精神医学がそこまで専門分化してるわけじゃなし,うつ病の治療法をきちんと知らない精神科医が統合失調症やパニック障害やアルコール依存症の治療をきちんと知っているということはありえません。
要するに,「精神疾患の治療法をきちんと知らない精神科医が多い」ということに他ならないのです。

良くも悪くも,阪南病院のN医師は,おそらく日本の標準的な精神科医なのかもしれません。

 

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2008年09月30日

双極性障害(躁うつ病)の診断と治療 ―典型的な治療失敗例(疑)を通じて― (11)

前回取り上げた毎日新聞(2006年9月27日)の記事の解説の続きです。

ラストセンテンスの「当面は大学病院や総合病院の精神神経科,うつ病専門の開業医にかかるのがよい」というの樋口輝彦・国立精神神経センター院長のコメントが全てを物語っています。

国立精神神経センターは高度な専門施設ですから,当然,他の医療機関で治療がうまくいかなかった患者さんが多く紹介されてきます。
それはすなわち,国立精神神経センターで働いている医師は,他の医療機関で行われている治療がいかに貧困なものであるかを身に沁みて理解しているということに他なりません。
紹介状に記されている前医の処方に,患者さんから聞くそれまでの治療内容に,唖然とすることはけっして稀ではないでしょう。

「うつは心の風邪」というキャッチフレーズのもと啓蒙がなされた結果,それまで治療に乗っかっていなかった多くの患者さんが医療機関の門を叩くようになりました。

しかしその門の向こうに,適切な治療をしてくれる医者がいる可能性は25%にしかすぎません。
風邪をひいて内科を受診して「当面は大学病院や総合病院の風邪専門の医師にかかるのがよい」と言われることがあるでしょうか。
精神科領域ではそれが現実なのです。

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Common diseaseであると言われるうつ病ですら,75%の精神科医は適切な治療を行うことができません。
いわんやうつ病よりも珍しい,もしくは治療が難しい病気においてをや,です。
そして,双極性障害(躁鬱病,躁うつ病)を含めて,ほとんどの精神疾患が,うつ病よりも珍しかったり,治療が難しかったりするのですが。

日本の現状では,患者さんやそのご家族は,まずご自分の病気に適切な診断を付け,適切な治療を施してくれる「まともな医者」をみつけるところから始めなければならないのです。

しかし,精神科領域における「良い医師」の定義は一様ではありません。

たとえば,「マンガ お手軽躁うつ病講座High&Low」「マンガ境界性人格障害&躁うつ病REMIX 日々奮闘している方々へ。マイペースで行こう!」では,たなか氏は病状が好転しているとは思われず,ご自分でもそのことに気づいている節がありますが,それでもこの主治医に信頼を寄せているようです。

実はこれは珍しいことではありません。

 

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2008年10月13日

双極性障害(躁うつ病)の診断と治療 ―典型的な治療失敗例(疑)を通じて― (12)

端的に言ってしまえば,「マンガ お手軽躁うつ病講座High&Low」「マンガ境界性人格障害&躁うつ病REMIX 日々奮闘している方々へ。マイペースで行こう!」におけるたなかみる氏の主治医の腕は日本の精神科医としては標準的なところでしょう。
典型的な経過をたどる躁うつ病(双極性障害)の診断は付けられるものの,この病気の治療方法のスタンダードは知らない――その程度の知識レベルでも,日本では平均点をとることができます。

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なにしろ,たんなるうつ病の適切な治療を出来る精神科医が25%しかいないというのが現状です。
うつ病よりも診断も治療も困難な躁うつ病(双極性障害)ともなれば,ちゃんと診られる精神科医は大雑把に言って全体の1割程度なのではないでしょうか。

私は,たなかみる氏の経過は,不幸にして,わが国における躁うつ病(双極性障害)患者さんたちがたどる典型的なものである可能性が高いと考えています。

 

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2008年11月04日

双極性障害(躁うつ病)の診断と治療 ―典型的な治療失敗例(疑)を通じて― (13)

躁うつ病_躁鬱病_双極性障害_気分障害_診断_治療

奇しくもこの主治医自身が言っている通り,双極性障害(躁鬱病,躁うつ病)と境界性人格障害(ボーダーライン・パーソナリティ・ディスオーダー)の鑑別はしばしば困難で,横断像だけからでは判断できないことも少なくありません。
そして適切な治療がなされずに慢性化してしまった双極性障害の病像は,多くの場合で人格障害のように見えてしまいます。

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たなか氏の場合も,10代後半で発症した双極性障害としても説明がつきそうな気もするのですが……。

 

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