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2007年08月 アーカイブ

2007年08月03日

パキシルの,メジャーでマイナーな副作用:補足

以前に書いた,「パキシルの,メジャーでマイナーな副作用 (1)」のコメント欄に,先日コロさんからご質問をいただきました。

個人的にも興味があったので少し調べてみたのですが,これはなかなかの難問のようです。
結論から申し上げると,私が調べたかぎりでは,パキシル(パロキセチン)によって生じた射精障害が,パキシル中止後どれくらいの期間で改善するかを確認した研究はないようです。

コロさんの場合,コメントでいただいた情報からすると,前後関係からしてパキシルによって射精障害が生じた可能性は高いと思います。

SSRIによる性機能障害は用量依存性であるようなので,中止ではなく減量でも射精障害が改善する可能性もありますが,パキシルが原疾患(うつ病なのでしょうか?)にものすごく有効であったということでもなければ,まあ私なら中止しますかね。

ただ判断が難しいのは,副作用は服用後まもなく発現する一方で,効果発現には数週間を要する点です。
パキシルを,どのくらいの用量,どれくらいの期間服用されたのかはわかりませんが,本当の意味でリスクとベネフィットを秤にかけられるのは十分量・十分期間を服用した後です。
しかし性機能障害の場合は耐性はほとんど生じない(飲んでいるうちに身体が慣れて自然解消するということがない)副作用なので,有効であっても中止,というのはありうる選択肢です。

パキシルは半減期が長く,向精神薬は一般的に脂溶性が高いので,身体から抜けるのには一定の時間を要します。
これには肝機能や体脂肪率が影響するので,個人差があって,一概にこれくらいという数字を示すのは難しいですね。

あまり役に立つアドバイスができなくて申し訳ありません。

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2007年08月15日

精神科の薬と緑内障 (1)

緑内障は40歳以上の方の17人に1人が罹患しているという決して稀ではない疾患であり,失明の原因としてはもっとも頻度が高いものです(Wikipediaの該当項がよくできているので,興味がおありの方にはお勧めします)。

実はこの緑内障,眼科の病気でありながら精神科治療においても鬼門です。
なぜなら,精神科の薬(向精神薬)のほとんどが,緑内障のうちの閉塞隅角緑内障を絶対的もしくは相対的な禁忌としているからです。

大多数の向精神薬は神経伝達物質の伝達を遮断したり促進したりすることで作用もしくは副作用を発現するのですが,古いタイプの抗うつ薬や抗精神病薬は,ほぼ例外なく,アセチルコリンという神経伝達物質の伝達を遮断する働き(抗コリン作用)を有していました。

抗コリン作用にポジティブな効果は無く,口渇や便秘,物忘れといった,旧世代の向精神薬の副作用の大半を担っていました。
そして,抗コリン作用を有する薬物は閉塞隅角緑内障を悪化させるため,一昔前まではほとんどの向精神薬が閉塞隅角緑内障を合併する患者さんには使えませんでした。

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精神科の薬と緑内障 (2)

SSRIやSNRI,非定型抗精神病薬のうちのいくつかはこの抗コリン作用が少ないことを「売り」にしており,たしかに旧世代の同効薬にあったような副作用が少ないのですが,しかし依然として閉塞隅角緑内障を合併する患者さんには禁忌です。弱いとはいえ抗コリン作用を持っているからですが,わたしは「精神科の患者さんの車の運転 ⑤」あたりで述べたような製薬会社・厚生労働省の事なかれ主義も関係しているのではないかと考えています。

ここからようやく本題なのですが,ほぼ毎日覗き,たまに書き込みをしている「心身の不調解消ポータル『ピュアネス』」「デパス等抗不安薬を飲み続けていいのか・・・②」というスレッドでご質問をいただきました。

要旨は,「ベンゾジアゼピン系の薬物は閉塞隅角緑内障を合併する患者への投与が禁忌とされているようだが,であるならば閉塞隅角緑内障を合併する患者が不安障害や不眠症を呈したらどうやって治療するのか?」というものでした。

恥ずかしながら,このご質問をいただくまでは,私はベンゾジアゼピンと緑内障についてあまり深く考えたことがありませんでした。

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2007年08月19日

精神科の薬と緑内障 (3)

そこで今回,もっともよく使用されている眠剤のひとつ,ロヒプノールの販売元である中外製薬(例のタミフルの販売元でもあります)のウェブサイトから,以下のような質問を送付してみました。

「医薬情報センター御中:
御社製品ロヒプノールについてですが,急性狭隅角緑内障を併存している患者さんには投与が禁忌となっています。確かに,抗コリン作用がある薬物の場合は緑内障を患われている方への投与は危険だと思いますが,ベンゾジアゼピン系薬物であるロヒプノールは何故に眼圧上昇のリスクがあるのでしょうか? ロヒプノールにも抗コリン作用があるのでしょうか? それとも他の機序によって眼圧が上昇しうるのでしょうか? またこの急性狭隅角緑内障の『急性』はどのように定義されるのでしょうか?」

これに対してご丁寧な回答をいただきました。

「この度は弊社ホームページよりお問合せをいただき、ありがとうございます。
お問合せにつきまして、下記のとおりご回答させていただきます。
ベンゾジアゼピン系薬剤は弱い抗コリン作用を有するため,眼圧が上昇するおそれがあるので,
禁忌としています。また,急性型については,緑内障診療ガイドラインでは『隅角の広範な閉塞に
より短時間に眼圧が上昇し,いわゆる緑内障発作に代表される臨床症状を呈するもの』とされて
います。
よろしくお願い申し上げます。

中外製薬(株)医薬情報センター」

というわけで,不勉強でしたがロヒプノールにも(おそらく他のベンゾジアゼピン系薬物も同様であろうと思われます)弱いながら抗コリン作用があるために急性狭隅角緑内障を併存している患者さんには投与が禁忌とされているようです。

不眠や不安を呈する精神科疾患も緑内障も有病率が高い疾患なので,両者を合併する患者さんの数は決して少なくありません。
もちろん「急性」狭隅角緑内障の定義にあてはまる患者さんは多くはないのでしょうが,眼圧が安定している患者さんの場合では,眼科と連携して精神科治療を行っていく必要がありそうです。

(この項終わり)


追伸 蛇足ながら,私がジェネリック医薬品の使用に積極的ではない理由の一つは,安全性情報に関する提供能力が,多くのジェネリック医薬品メーカーで貧弱であることです。
多くの先行薬メーカーが今回の中外のように情報センターをもっていて迅速に対応してくれますが,このような体制をとっているジェネリックメーカーは多くはありません。

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