今回は精神科と神経科の区別……の予定でしたが、少し寄り道をさせていただくことにします。
まず皆さんにお礼を。
まだ始めて間もないブログですが、皆さんから応援のコメントやトラックバックをいただきました。虚空に石を投げていたわけではないことがわかって嬉しく思うとともに、身が引き締まる思いがしました。患者さんにとって有用な情報を、できるだけ正確に、かつわかりやすく伝えていくべく努力していこうと思いますので今後ともよろしくお願いいたします。
本日、GoodSmileさんからいただいたコメントに、私がこの項でとりあげようとしている問題の原因のひとつが含まれているように思えました。
今回はそれについて述べさせていただきます。
GoodSmileさんのコメントを一部引用させていただきます。
> 過日、総合病院の精神科を受診しようとしたら予約がいっぱいで1ヶ月待ちと
> いわれました。
> やはり大きな別な病院では2ヶ月待ちとのことでした。
精神科を受診する場合、総合病院の精神科がよいのか、単科の病院やクリニックがよいのか――これについては個々の患者さんの診断や状態、なにより医師の質にもよるので一概にはどれがよいとは言えません。
ただ、評判が良い病院ほど初診までの待機期間が長かったり、受診できたとしても3分間診療にならざるをえないというデメリットもあります。
このあたり、日本の医療機関が抱える構造的問題+精神科医の量的不足の合わせ技だと言えるでしょう。
構造的問題というのは、専門医を受診するまでの制度の問題です。
欧米では、総合病院や大学病院の精神科専門医を受診するまでのハードルは日本よりもかなり高く設定されています。
もっとも先進的な(極端な?)医療モデルのひとつとされているイギリスの場合、大学病院の精神科を受診しようとすれば、待ち時間は1ヶ月では済みません。
イギリスではNHS(National Health Service)という国営医療制度が発達していて、住民は身体的・精神的不調を生じた場合、まず居住地域ごとに割り当てられたGP(General Practitioner)の診察を受けなければなりません。GPは、基本的にはどのような病気の初期対応もできるように訓練されたプライマリケア専門医です。このGPが、より専門的な治療が必要だと判断し、紹介状を作成した場合のみ、患者さんは専門医を受診することができます。
逆に言えば、GPの紹介が無い場合、専門医を受診することは非常に困難なのだそうです。
紹介状を作成してもらえた場合も、専門医の診察を受けられるのは数ヵ月後です。英国留学経験者によれば、精神科の場合で待ち時間は平均半年くらいだということでした。
しかし、専門医のレベルは非常に高く、診察が始まってから受けられる医療の質は高いものになります。
専門医が1日に診る外来患者数はわずか数人。当然3分間診療などはありえず、コメディカル・スタッフの質や量も充実しているため、かなり濃厚なケアがなされるわけです。
ただし、専門医療機関での治療が必要無いくらいに回復した場合は、またGPのもとで治療を受けることになります。
この日英の医療制度の違いは、専門医へのアクセスの容易さと専門医の治療の質という観点で議論されることが多いのですが(アクセスが容易なら専門医に患者さんが集中するので、3分間診療にならざるをえず、治療の質は低くなりがち→日本型/アクセスが制限されると専門医の治療の質は高くなるが、専門医受診までの門が狭く、高くなりがち→イギリス型)、他にも重要な側面があると私は考えます。
それがこの「精神科と神経科と神経内科と心療内科」のテーマとも深く関連します。
GPを経て専門医の診察を受けるイギリス型制度においては、患者さんがどの科を受診するかを選択する必要がありません。たとえば、精神科と神経内科と心療内科のどれを受診すべきかを患者さんが迷うことはイギリスではないのです。
受診した患者さんがどの科において専門的治療を受けるべきか――そういった「交通整理」のスペシャリストであるGPが、適切な科を選択し、紹介してくれるからです。
初期治療が大切なことは初回にも述べましたが、その初期治療を受ける専門医の決定をしてくれるスペシャリストがいることがイギリス型治療の大きなメリットのひとつであるように私には思われます。
英国ではプライマリケア専門医が行っているような微妙な判断を、日本においては患者さん自身が下さなければならないわけです。
次回は精神科と神経科について、です。
>>>>精神科と神経科と神経内科と心療内科 (5)
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